新川和江
わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱(ねぎ)のように
束ねないでください
わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください
わたしは羽ばたき
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください
わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮(うしお) ふちのない水
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください
わたしは風
りんごの木と
泉のありかをしっている風
わたしを区切らないで
,や.いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください
わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく
拡がっていく
一行の詩
- 2009/04/25(土) 01:03:29|
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